リスクってこわいもの?リターンってうれしいもの?
「リスク」と聞くと、なんだかこわいことのように感じるかもしれません。失敗するかもしれない、損するかもしれない——そんなイメージがあるからです。一方、「リターン」はうれしいもの。がんばったら結果が返ってくる、うまくいったら得をする——そんな期待が込められています。
でも実は、リスクとリターンはいつもセットでやってきます。何かに挑戦するとき、何かを選ぶとき、そしてお金を使うとき——私たちはいつも「リスクとリターン」を天秤にかけながら生きています。
この考え方は、子どもにとっても大切な“生きる力”になります。失敗を恐れずに挑戦すること、選ぶ前に考えること、結果を振り返ること——それらはすべて、リスクとリターンを意識することで育まれるのです。
この記事では、親子の自然な会話の中で「リスクとリターン」の考え方を伝えるためのヒントを、身近な例を交えながら深く掘り下げてご紹介します。
「おこづかいを全部使う?それとも残す?」から始まる会話
ある日、子どもが「おこづかいで全部お菓子を買いたい!」と言ってきたとします。そんなとき、親は「いいよ」「ちょっと待って」と答えるだけでなく、こんなふうに問いかけてみることができます。
「全部使ったら、今は楽しいけど、来週欲しいものが出てきたらどうする?」
「少し残しておいたら、来週の選択肢が広がるかもね」
「今の楽しさと、後の困りごと、どっちが大きいと思う?」
このやりとりは、「今の満足(リターン)」と「後の困りごと(リスク)」を比べる練習になります。子どもは、「使うこと=楽しい」だけでなく、「残すこと=安心」や「選べる自由」もあると気づきます。
さらに、「もし来週、友達と遊びに行くことになったら?」「そのときに使えるお金があったら、どんな気持ちになる?」と未来の場面を想像させることで、時間軸を意識した判断力が育ちます。
このような対話を繰り返すことで、子どもは「今だけを見る」のではなく、「少し先の自分」を思い描く力を身につけていきます。そして、「使う前に考える」「選ぶ前に想像する」という習慣が、自然と根づいていきます。
「チャレンジすること」もリスクとリターンの練習になる
リスクとリターンは、お金の話だけではありません。たとえば、子どもが「新しい習い事を始めたい」「友達に話しかけてみたい」「学校で発表してみたい」と言ったときも、リスクとリターンの考え方が活かされます。
親はこんなふうに問いかけてみましょう。
「初めてのことって、ちょっと不安もあるよね。でも、やってみたらどんなことが得られると思う?」
「もしうまくいかなかったら、どうすればいいと思う?」
「失敗したとしても、何か学べることはあるかな?」
このような会話は、「失敗するかもしれない(リスク)」と「成長できるかもしれない(リターン)」を一緒に考える時間になります。子どもは、「失敗=ダメ」ではなく、「失敗=学び」や「挑戦=価値がある」と感じるようになります。
さらに、親が「お母さんも昔、初めての仕事でドキドキしたよ」「でもやってみたら、すごく楽しかった」「失敗もしたけど、それが今の力になってる」と自分の経験を話すことで、子どもは安心してチャレンジできるようになります。
こうした対話は、子どもに「挑戦することの意味」「リスクを受け止める力」「自分で選ぶ責任」を育てる土壌になります。そして、挑戦の先にある“自分の成長”を楽しめるようになるのです。
「ゲームの課金」や「おもちゃの購入」もリスクとリターンの教材になる
子どもが「このゲームに課金したい」「このおもちゃがほしい」と言ったときも、リスクとリターンの考え方を伝えるチャンスです。
たとえば:
「このアイテム、買ったらどんな楽しさがあると思う?」
「でも、すぐ飽きちゃうかもしれないっていうリスクもあるよね」
「そのお金で別のものを買う選択肢もあるけど、どう思う?」
こうした問いかけは、「欲しい気持ち」を否定するのではなく、「選ぶ前に考える」ことを促します。子どもは、「買う=満足」だけでなく、「買わない=別の可能性」もあると気づきます。
さらに、「買ってよかった?」「思ったより使わなかった?」と振り返る時間を持つことで、経験が“学び”に変わります。「次はどうする?」「同じような場面で、どう選びたい?」と話すことで、判断力と自己理解が深まります。
親が「お父さんも昔、似たような買い物をして後悔したことがあるよ」「でもその経験が、次の選択に役立った」と話すことで、子どもは「失敗してもいい」「そこから学べばいい」と感じるようになります。
「リスクは悪いことじゃない」と伝える
子どもにとって、リスクは「避けるべきもの」「怖いもの」と感じられることがあります。だからこそ、親が「リスクは悪いことじゃない」「リスクがあるからこそ、リターンがある」と伝えることが大切です。
たとえば:
「新しいことに挑戦するときは、うまくいかないこともある。でも、それって自然なことだよ」
「リスクがあるってことは、可能性があるってことでもあるんだよ」
「大事なのは、リスクを知ったうえで、自分で選ぶことだよ」
こうした言葉がけは、子どもに「考えて選ぶ力」「失敗を受け止める力」「挑戦を楽しむ力」を育てます。
また、親自身が「この前、ちょっとリスクのある選択をしたけど、結果はこうだった」「うまくいかなかったけど、やってよかった」と話すことで、リスクとリターンのリアルな感覚を伝えることができます。
さらに、「リスクを減らす工夫」についても話してみましょう。「事前に調べる」「小さく始める」「誰かに相談する」など、リスクを受け止めながらも安心して挑戦する方法を一緒に考えることで、子どもは「怖いからやめる」ではなく、「工夫してやってみる」という姿勢を持つようになります。
「リスクとリターンのバランス」を一緒に考える習慣をつくる
最後に、リスクとリターンは「どちらか一方」ではなく、「バランスをとるもの」であることを伝えましょう。
たとえば、親子で「今月のおこづかい、どんなふうに使う?」と話すときに、「ちょっとチャレンジしてみる部分」「安心して使える部分」「貯めておく部分」に分けて考えてみると、リスクとリターンのバランスを自然に意識できるようになります。
・チャレンジ:新しい本、体験、道具(リターンは大きいが、飽きる・使わないリスクもある)
・安心:いつものお菓子、好きなアイテム(満足度は安定しているが、成長にはつながりにくい)
・貯蓄:来月のための準備、将来の目標(リターンは時間がかかるが、選択肢が広がる)
このように分けて考えることで、子どもは「お金の使い方には選択肢がある」「自分でバランスをとれる」という感覚を育てていきます。
さらに、親子で「今月はどんなリスクをとった?」「どんなリターンがあった?」と振り返る時間を持つことで、経験が知恵に変わります。失敗したことも、うまくいったことも、すべてが「自分で選んだ結果」として受け止められるようになります。
この習慣は、金融リテラシーだけでなく、人生の選択力そのものを育てる土台になります。
リスクとリターンは、“生きる力”を育てる考え方
リスクとリターンの考え方は、お金の話だけでなく、人生のあらゆる場面に活かされます。選ぶ力、挑戦する力、振り返る力——それらはすべて、リスクとリターンを意識することで育まれるものです。
親子の会話の中で、「この選択にはどんなリスクがある?どんなリターンがある?」と問いかけることで、子どもは「考えて選ぶ」ことの大切さを学びます。そして、失敗してもいい、迷ってもいい、でも「自分で選んだ」という実感が、子どもを強くしていきます。
リスクを避けるのではなく、理解し、受け止め、工夫して向き合う力。リターンをただ期待するのではなく、努力し、振り返り、次につなげる力。それらはすべて、親子の対話の中で育てることができます。
今日の選択が、明日の自信につながる。
リスクとリターンは、親子で育てる“未来へのまなざし”なのです。

