お菓子を買う?買わない?——親子の会話から育てる金融リテラシー〜日常の選択を“お金の学び”に変えるための実践ガイド〜

金融教育

お金の教育は、レジの前から始まっている

「このお菓子、買ってもいい?」
スーパーやコンビニで、子どもがそう聞いてくる場面は、親にとって日常のひとコマかもしれません。忙しいときには「今日はダメ」「1個だけね」と即答してしまいがちですが、実はこの瞬間こそが、子どもの金融リテラシーを育てる絶好のチャンスです。

金融リテラシーとは、「お金を正しく理解し、使いこなす力」。それは単なる知識ではなく、「価値を見極める力」「選択する力」「感情との付き合い方」「社会とのつながりを理解する力」を含んだ“生きる力”です。そしてその力は、特別な教材や講座ではなく、日常の会話や体験の中でこそ育まれます。

この記事では、「お菓子を買うかどうか」という身近な場面を通して、親子で金融リテラシーを育てるための視点と実践方法を、具体的かつ丁寧にご紹介します。

“買う・買わない”を選択の練習にする

    「買ってもいい?」という問いに対して、すぐに「ダメ」「いいよ」と答えるのではなく、「どうしてそれが欲しいの?」「他の選択肢もあるよね?」と問い返してみましょう。

    このやりとりは、単なる“お菓子の選択”ではなく、「自分の欲求を言語化する」「比較して選ぶ」「理由を考える」という思考の練習になります。

    たとえば:

    • 「このお菓子、前にも食べたよね。また食べたい理由は何?」
    • 「同じ値段で別のものも買えるけど、どっちがいいと思う?」
    • 「今週はもう2回お菓子買ってるけど、それでも買いたい?」

    こうした問いかけを通じて、子どもは「欲しいから買う」ではなく、「必要かどうか」「どれがより良い選択か」を考えるようになります。これは、将来の消費行動や価値判断の土台になります。

    さらに、選択の結果についても振り返る時間を持つと効果的です。「買ってよかった?」「思ったより満足できた?」「次はどうする?」といった問いかけは、経験を学びに変える力を育てます。

    “価格”だけでなく“価値”を話す

      子どもは「高い・安い」で物を判断しがちですが、親が「価格の背景」や「価値の違い」を言葉にすることで、より深い理解が育ちます。

      たとえば:

      • 「このお菓子は100円だけど、量が少ないね。こっちは150円だけど、家族で分けられるよ」
      • 「このメーカーはフェアトレードのチョコを作ってるんだって。ちょっと高いけど、作ってる人のことも考えてるね」
      • 「安いけど、すぐ飽きちゃうかも。長く楽しめるものってどれだろう?」

      こうした会話を通じて、子どもは「価格=価値」ではないことに気づきます。そして、「誰が作ったか」「どんな背景があるか」「どんな気持ちになるか」といった視点を持つようになります。

      また、親が「自分はこういう理由で選んだよ」と価値観を共有することで、子どもは「選ぶことには意味がある」と感じるようになります。これは、消費を通じて自分の価値観を育てる第一歩です。

      “予算”という考え方を共有する

        「今日は500円までね」「おこづかいの中で選んでね」といった予算の提示は、金融リテラシーの第一歩です。ただし、単なる制限ではなく、「どう使うかを考える機会」として活用することが大切です。

        たとえば:

        • 「500円の中で、どんな組み合わせができるかな?」
        • 「全部使う?少し残して貯める?」
        • 「来週のイベントのために、今は我慢するっていう選択もあるよ」

        予算内で選ぶことは、計画性・優先順位・先延ばしの力を育てます。親が「どう使うかを一緒に考える」姿勢を見せることで、子どもは安心して選択に向き合えるようになります。

        さらに、予算を「数字」ではなく「目的」として伝えると、より深い理解につながります。「この500円は“楽しむためのお金”だね」「これは“学びのためのお金”」といった言葉がけは、お金の使い方に意味を持たせることができます。

        “感情とお金”の関係を言葉にする

          お金の使い方には、感情が深く関わっています。「ストレスがたまってるから買いたい」「友達が持ってるから欲しい」など、子どもも無意識に感情で選んでいることがあります。

          親が「気持ち」と「お金」を結びつけて言葉にすることで、子どもは自分の感情を客観視する力を育てていきます。

          たとえば:

          • 「疲れてると、甘いものが欲しくなるよね。でも、それって本当に必要かな?」
          • 「友達が持ってると、欲しくなる気持ち、わかるよ。でも、自分にとって必要かどうかも考えてみよう」
          • 「買ったあと、どんな気持ちになると思う?」

          こうした問いかけは、感情の整理とお金の使い方をつなげる大切なステップです。親が「気持ちに寄り添いながら、選択を支える」姿勢を見せることで、子どもは安心して自分の感情と向き合えるようになります。

          “買わない”という選択を肯定する

            「買わない」という選択は、我慢や節約だけでなく、「自分で判断した」という自信につながります。親が「買わないこと」を肯定的に受け止めることで、子どもは「選ばなかった自分」を誇りに思えるようになります。

            たとえば:

            • 「今日は買わないって決めたんだね。すごいね」
            • 「我慢できたこと、ちゃんと覚えておこう。次に使いたいときに役立つよ」
            • 「買わないっていう選択も、立派な使い方だよ」

            こうした言葉がけは、子どもの自己肯定感を育てると同時に、「お金は使うだけじゃない」という視点を広げてくれます。

            また、「買わないことで得られるもの」についても話してみましょう。「買わなかった分、貯金が増えたね」「その分、別の楽しみができるかも」といった視点は、選択の幅を広げることにつながります。

            お金の話は、親子の信頼と価値観を育てる時間になる

            「このお菓子は買う?買わない?」という何気ない会話の中には、金融リテラシーのすべてが詰まっています。選ぶ力、価値を見極める力、感情との付き合い方、予算の考え方——それらはすべて日常の対話を通じて育まれるものです。

            親が「教える人」ではなく「一緒に考える人」になることで、子どもは安心して自分の気持ちや考えを言葉にできるようになります。そして、買う・買わないという選択を通じて、自分の価値観を育てていくことができます。

            お金の話は、単なる金額のやりとりではなく、「自分は何を大切にしたいのか」「どんなふうに生きていきたいのか」を考えるきっかけになります。だからこそ、親子の会話の中で、少しずつ、ていねいに、お金との付き合い方を育てていくことが大切です。

            今日の買い物が、明日の生きる力につながる。そんな視点で、親子の時間を少しだけ変えてみませんか?
            お金の話は、親子の信頼と価値観を育てる、かけがえのない時間になるのです。

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